AZATOY、シンダーエラ、悲劇を悲劇として背負って進むアンチハッピーエンド
AZATOY「絶対!悲ロイン♡」
4月に新メンバーを迎えて体制を新たにしたAZTOY。新体制新曲となる「絶対!悲ロイン♡」では、衣装もカラフルでフリルたっぷりのメンバーカラースタイルに転向し、メルヘンな世界観を展開……かと思いきや、歌詞を見るとAZATOYらしさを見失わないリアルで毒のある女の子観が描かれている。
〈シンデレラストーリーにその続きがあったなら/ハッピーエンドなんてナンセンスだと思わない?〉と真っ向から『シンデレラ』を否定するこの楽曲は、童話『シンデレラ』そのものの再解釈というよりも、そこから派生して「シンデレラストーリー」と総称される女の子の成功譚、ドラマティックなハッピーエンドの物語の典型へのアンチテーゼというスタンスになっている。
「さすが〜」「知らなかった〜」「すご〜い」「センスある〜」「尊敬〜」から成る「できる女の子のさしすせそ」を演じてみせながらも、現実を悲観し、同時にそうした「可哀想な私」を客観視している冷めた部分も持ち合わせた主人公。孤独ながらも強かに生きる彼女が目指すのは、シンデレラのような劇的な転換とハッピーエンドではなく、自らの血・汗・涙によって〈悲劇ごと愛される日が来る〉という結末を勝ち取ること。〈そうよ、ヒロインならね、可哀想でいなくちゃね。〉と宣言する姿は、まさに悲撃のヒロイン症候群から連なる「心の闇を抱えた女の子のためのアイドル」というシーンの系譜を感じさせるものであり、「優しい世界」を志すOTONA CHILD.のグループとしてAZATOYが目指すべき理想を表現しているのである。
ちなみにAZATOYの先輩であるNANIMONOには「After CInDErella」という楽曲があり、これはプロデューサーのこゆびちゃんが活動していたバンド・雨ノ弱の楽曲「CInDErella Story」(こちらは後輩のhakanaiがカバーしている)の続編にあたる作品。大文字になっている「CIDE」は「suicide(自殺)」や「genocide(虐殺)」などの単語で用いられるとおり英語で「殺す」を意味する語幹で、どうやらこゆびちゃんの作品においてはシンデレラという存在は死生観と結びついたものになっているようだ。
シンダーエラ「暗赤の薔薇」
シンダーエラはその名前のとおりグループ自体がグリム童話「シンダーエラ(灰被り姫)」にインスパイアされたコンセプトを持っているアイドルグループ。グリム版(ドイツ語では「アッシェンプッテル」)は、継母が連れ子の姉娘たちを王子に嫁がせるべく足の指を切り落とさせるなど残虐な描写があることがしばしば取り沙汰されるが、シンデレラのドレスや靴を用意するのが魔女ではなく実母の墓に植えたハシバミの木に集まる鳥たちであること、従ってカボチャの馬車のようなファンタジックな要素が登場しないなど、最も有名なストーリーパターンとは細かな違いも多い。
グループコンセプトが丸ごとシンデレラであるため、どの楽曲もその要素を持ったものになっており、あえてどれかをピックアップするのも難しいところがあるが、ここではグループタイトルアルバム『cider-ella』(2020年)に収録されている「暗赤の薔薇」を紹介しておこう。
楽曲は主人公の〈私は周りからみて何色なのかな/自分の色を隠し嘘でごまかしてた〉という独白で始まる。〈この色に生まれてきたくて生まれたわけじゃない〉というその「色」とは、灰被りの異名のとおり、周囲から蔑まれ、あるいは「可哀想」という目で見られる濁った灰色に他ならないであろう。
自ら望む色に変わることを決意する主人公はこれまでの過去も否定することなく受け入れ、背負いながら新しいこれからを生きて行くと宣言。そんな自らを「暗赤の薔薇」と表現するのである。灰色から別の色への転換によるドラマを描くというのはこれまでみてきた楽曲とも共通するシンデレラのモチーフによるギミックなのであるが、転換した先が暗い赤というゴシックな雰囲気の色になっているのが、グリム版を下敷きにしているシンダーエラらしさの表れているところ。悲劇を悲劇として受け入れながら〈背負って生きる〉と強かに宣言する精神性は「絶対!悲ロイン♡」とも共通するもので、これはディズニー版ではなく原典の童話に近い物語の現代的な再解釈になっている。