ふるっぱー「キミコイ」とばちゅん夏新曲、12時の鐘を超えた先へ
FRUITS ZIPPER「キミコイ」
FRUITS ZIPPER初のアリーナクラス公演であった《FRUITS ZIPPER JAPAN TOUR 2023 -AUTUMN- TOUR FINAL》(東京体育館)に合わせた新曲として書き下ろされた「キミコイ」は、アイドルとファンとの運命的な関係性を描いた楽曲。〈突如現れし王子様〉〈24時を回っても解けない魔法があるよ〉と全体に『シンデレラ』から持ち込まれたフレージングになっている。
この曲の歌詞のギミックとして面白いのは2番サビからの展開。サビの終わりで〈24時間経ってもずっと消えないストーリーだよ/君だけのあしあと 尊くて心でスクショした〉と歌っており、これはInstagramの“ストーリーズ”機能(投稿後24時間経過すると自動的に削除される)と“シンデレラストーリー”における「24時の鐘」(それによって消えてしまう魔法)を重ね合わせているわけである。「あしあと」というのも、SNSにおける「あしあと機能」とシンデレラが“ガラスの靴を後に残していく”という展開をかけたものになっていて、TikTokを主戦場とする現代アイドルの代表格であるFRUITS ZIPPERらしく、現代的なアイテムや機能と『シンデレラ』のストーリーをうまくシンクロさせた言葉選びが見事。
さらに続くパートでは〈運命は決められた物語じゃなく愛する強さの名前/だから赤い糸やガラスの靴がなくたって見つけ合えたんだ〉と「運命」のあり方を再解釈し、従来的な「シンデレラストーリー」のお決まりパターンをあえて打ち消してみせることで、「アイドルとファン」という運命的で特殊な関係性を強固に定義づけているのである。
Merry BADTUNE.「13月のシンデレラ」
「キミコイ」同様に『シンデレラ』における“12時(24時)の鐘の音”という時刻のモチーフをギミックとして効果的に取り入れた楽曲としてもうひとつ、Merry BADTUNE.が2025年の夏に向けて打ち出した新曲「13月のシンデレラ」を挙げておきたい。
『シンデレラ』成分以外の歌詞について見ていくと、「未完成ナイトライダー」「真夏のユーレイ!!」など既発の甘噛作詞によるジュブナイル的な青春ストーリーを踏襲しており、2023年、2024年とライブアイドルの王道かつ理想系とも言える夏の軌跡を辿ってきたMerry BADTUNE.が、今改めて挑む新しい世界、「まだ知らない季節=13月」を描いたものになっている。
12月を超えた先の未知の時間として「13月」というワードをもってくること自体は先例が多くあるのだが、この曲はそこに「シンデレラ=12時を過ぎれば魔法が解けて存在することができなくなるお姫様」というモチーフを持ち込んだのが面白いところ。童話『シンデレラ』における王子とシンデレラとの結末は、12(時)というタイムリミットを超えた先の未知の世界へと王子がシンデレラを「連れて行く」構造であるといえる。そして〈「じゃあいっそ」ってその手とって/まだ知らない世界へ/もう一度キミを連れて行くから〉と歌われる「13月のシンデレラ」では、“ボク”が“キミ”を12(月)を超えた先の未知の季節へと連れて行くのである。「キミコイ」同様、シンデレラにおける時間のモチーフには、定められたタイムリミットを乗り越えて新しい運命や物語へと進んでいくという展開を示唆する効果がある。
〈見上げた空色 「進め」の青だ〉〈BABY BLUE 飛び込んで〉〈青く澄んだ夢の彼方〉と繰り返し夏らしい「青」のイメージが描き出されるのは、目的は違えど「モブノデレラ」の色彩技法と共通するところでもあり、ディズニー版シンデレラの大衆イメージとも無関係ではないのかもしれない。