2020年代の今『シンデレラ』により描き出されるもの
『シンデレラ』が古今東西多くの人に愛され、二次創作のテーマ・モチーフとして頻繁に取り扱われるのは、ここまでみてきたように「ハッピーエンドの最も有名で典型的な代名詞」という特性と、「ガラスの靴」や「12時の時計の鐘(タイムリミット)」といった様々な童話的モチーフのアイコン性の高さによるところが大きいであろう。
「モブノデレラ」のように、シンデレラが持つ「灰色」というイメージから別の色へと転換することによって鮮やかな色彩表現を加え、「変身」や「変化」を印象付けることができたり、「キミコイ」「13月のシンデレラ」で見たように「12(時)」という数字の表現を起点として時間的な意味を付け加えることができたりと、詞表現の奥行きを深めるための機能的な余地が多くあるのもこのモチーフの魅力的なところである。
こと現代日本の女性アイドルという観点から考え見ると、「タイムリミット」というテーマはアイドルと切っても切り離せないもの。限られた季節・時間の中で物語を紡ぎ、ときに定められた運命の時間をも超えてその先を描いて見せようと挑戦するアイドルとそのファンの在り方と、『シンデレラ』は親和性が高い。
また、普通の、あるいは目立たない女の子が魔法によってお姫さまの姿へ変身する、という展開もまたいうまでもなくアイドルとの親和性が高いポイントであろう。普通の女の子が衣装をまとってステージに立てば、アイドルとして多くのファンに愛される存在になる。1人の人間としての姿と偶像としての姿、その二面性について注目が集まり議論が交わされ、決して煌びやかに輝き人々を元気づけるだけではないアイドル自身の内面的葛藤にもフォーカスが当たってきたのが現代のアイドルである。
さらに言えば、そうしたアイドルが、自身と同じような立場にある女の子たち、あるいは女の子に限らないファンたちを、その立場に寄り添うような歌でエンパワメントしていくというのが現代的なアイドルソングの一つの在り方になっている。SNSの発達により比較対象となる人間の数が格段に増えた現代では、特に若い人々ほど他者と自己との比較に悩み、理想的ではない自分と向き合いながら生きている。「モブノデレラ」が「シンデレラにもヴィランにもなれなかった者」にフォーカスし、「絶対!悲ロイン♡」がハッピーエンドの続きは悲劇と歌うように、決して典型的な“ハッピーエンド”だけではない女の子の生き様をリアルに描くためのフォーマットとして、“変身”による典型的なハッピーエンドそのものである『シンデレラ』が逆説的に選ばれているのである。
数百年にわたり語り継がれ、今なお愛される物語に、それぞれの方法で現代的な新解釈を加えていくアイドルの『シンデレラ』ソングたち。モチーフが持つその不変の魅力と、現代社会に適合したストーリーのテーマ性によって、これからもその数は増えていくことであろう。