インキャによるインキャのための讃歌、NANIMONO
そして3組目、OTONA CHILD.始まりのグループであるNANIMONO。2022年6月に7人でデビューし、メンバーを入れ替えつつ現在も7人で活動している。NANIMONOのコンセプトは「未だ何者でもない女の子たちが何者かになる物語」。メンバー全員が“インキャ”であり、インターネットを住処とし現実世界で上手く生きていけない人々を肯定、エンパワメントしていくポップな楽曲で人気を得ている。
ヒット当初の「ジャージは戦闘服★」しかり、メジャー1st「インキャのキャキャキャ」しかり、自虐的かつポップに「インキャ」を押し出していく電波ソングの存在感が強く、さながら令和現代的版「でんぱ組.inc」的なポジション、文字通り「キャ(ラクター)」重視の印象を持っていたNANIMONO。しかし内実を見ると、都会的なリフレインから導かれる“きらきら星”の引用がスマートな「ケンタウロスの夜」、ソウルライクなビートにポエトリーが心地よい「CHEWING GUM」など音楽的にもしっかりとした造り込みと幅広さがあり、決して表面的なキャラ売り消費だけの存在ではないことが分かる。
雨ノ弱時代の楽曲を眺めてみても、制作陣の関心はむしろシティポップやモダンなEDMを取り入れたメロウで幻想的な深度のあるサウンドの方へ向いているようで、そしてこのふわふわとした聴感がプロデュースに一際色濃く現れているのが、hakanaiやAZATOYを差し置いて意外にもNANIMONOである。実は「ケンタウロスの夜」や「CHEWING GUM」はNANIMONOができる前にこゆびちゃんが自身のソロ曲として制作していた楽曲群とのことで、個人の創作活動からインキャに寄り添うというコンセプトが派生しより具体的なかたちを持ってNANIMONOとして現れ出た、ということのようである。
2ndアルバム『INTERNET MAGICAL GIRL』では「魔法少女」というコンセプトを加えて衣装やライブのクリエイティブを展開。表題曲「INTERNET MAGICAL GIRL」はどこまでも広がっていくような多幸感あるサウンドに乗せて〈魔法少女になれなかった〉と歌うアンセムで、決してハッピーエンドではない大団円、という矛盾しつつもどこか心地よい現実を描いている。どこか清々しい諦観の中で〈魔法少女になれなくたって〉とポジティブな転換を高らかに歌うことができるのは、NANIMONOが「インキャ」という現実世界のラベリングを自らのアイデンティティーとして一手に引き受け、かつインターネットの幻想世界で生きてきたキャラクターをも武器に換えて連れていくという挑戦をし続けてきたからこそ。そういう意味で、キャラクターチックでポップなNANIMONOも、都会的でメロウなNANIMONOも、決して分離した二面ではなく、インキャと呼ばれる存在に寄り添うインキャアイコンとして昇華されているのである。