こゆびちゃんの頭の中、そしてOTONA CHILD.が目指す世界
こゆびちゃんの頭の中から表出される少女たちの物語
三者三様の個性を持つオトチルのアイドルグループであるが、そのクリエイティブを紐解いていくと、実はまるで一人の少女像を3つの視点から描いているのではないかと思わせる奥行きが見えてくる。例えばNANIMONOの初期作品「JELLY FISH」は一夏の泡沫的な恋をクラゲになぞらえた楽曲であるが、歌詞で描かれる2人の秘密の関係やその刹那性といったモチーフはまさに後のhakanaiが中心的に扱っているもの。ミュージックビデオのサムネイルを見ても、hakanaiのパートで紹介した女学生たちのポートレートシリーズと共通した世界を描いていることが分かるだろう。
そして「JELLY FISH」のリリースから1年半を経てデビューしたhakanaiのファンネームはずばり「kurage」。さらにファンクラブの名称になっている「sakasakasa」も「JELLY FISH」にの歌詞に登場する「逆さ海月(サカサクラゲ)」を連想させる。ちなみにサカサクラゲは実在するクラゲの一種で、カサを下向きにして海中を浮遊する変わった生態を持つクラゲである。こゆびプロデューサーの頭の中にある世界では、クラゲというモチーフと「儚い」という心情、2人の秘密の関係というストーリーが相互にリンクを構成しており、それがそれぞれのプロダクトに切り出されて現れているように思われるのである。
「海月は死ぬと水に還るんだ」って
キミはわくわくしながら話した
NANIMONO「JELLY FISH」
(2022年)
夏の終わりにノスタルジックな気持ちになるのはきっと、私にも還る場所があるから。
いつだって、儚いものにばかり焦がれてしまいます。
「クラゲ」モチーフと「儚い」の関係はあくまで一例であるが、こうした共通点から見えてくる一つのゆるやかなストーリー・リンクを拾っていくことができるのも、OTONA CHILD.の大きな魅力であると言える。
OTONA CHILD.が目指す優しい世界
NANIMONOは「インキャ」とラベリングされる人々を当事者としてポップにアイデンティティーへと昇華。AZATOYはあざとかわいい女の子、あざとかわいくならざるを得なかった女の子の武装を肯定し、hakanaiは実体験・憧れを問わず既に失われてしまった「あの頃」との再邂逅を描き出す。3つのグループの在り方に共通するのは、孤独や喪失を抱えた人々に同じ目線で寄り添い、無理に引っ張り上げることはせずとも肯定しエンパワメントしていくという姿勢である。インターネットで、現実世界で、会社で、学校の教室で、歌舞伎町で……それぞれの場所で生きて、ときに引きこもり、ときに不条理と闘い、ときに何かを失う、そんな人間らしい営みに優しく寄り添ってくれる。OTONNA CHILD.がプロジェクト名の由来であり理念として掲げている「誰もがこどものまま大人になれる優しい世界」という文言の通り、どのグループの表現にもそんな「優しさ」が現れているのである。
末っ子のhakanaiも1周年を迎え2年目の半ば、4月のAZATOYに続き6月にNANIMONOも新体制をお披露目し、ますます今後の展開が楽しみとなっているOTONA CHILD.のグループたち。これからもその優しい世界の行く末にぜひ注目してほしい。