iLiFE!イズムと現代的アイドルトレンドの中で
サビ前セリフソング、アイドルとファンの関係値を描くグッとくるフレーズたち
M4. ビシバシデシベル
デシベル(dB)は音圧の単位で、人名由来の単位ベルに「デシリットル」と同じ接頭辞のデシがついたもの。タイトルはそのデシの音からビシバシという擬音を持ってきて引っ掛けているわけである。歌詞はグループコンセプトでありアルバムタイトルにもなっている「バカデカボイス」をそのまま表現したような内容になっており、〈君と奏でたい音がある〉というサビのフレーズが極めてライブアイドル的でグッとくるところ。
曲はCメロパートで静かに落としたかと思えばセリフ的な言い回しで急に思い直したようにギアを上げていく展開にMedansyイズムを感じる。
M5. ほしがりんちゅ
サビ直前にセリフを配置する展開構成は「わたしの一番かわいいところ」「かわいいだけじゃだめですか?」などTikTok発信の現代アイドルソングの典型。「ほしがりんちゅ」というタイトルも「~な人」を琉球方言の「~人(んちゅ)」に掛けて言う若者言葉・インターネット言葉を取り入れたものなのだが、ここに「I want you」との音の共通点を持ち込んだ上でさらに〈愛うぉんChu♡〉と表記するという二重、三重の言葉遊びになっているのが面白いところ。
全体に爽やかで疾走感のあるナンバーが多いアルバムの中で、歌詞的にもサウンド的にも流行のかわいい系アイドルソングのエッセンスを取り入れつつヒロインズ流に昇華させたものになっている。
M6. ユメイッチョクセン
「カニピース」と同じくAMAMOGU & TOTEM HIM’Sの提供であるが、こちらは一転エモーショナルな歌モノギターロックである。大きなワンマンライブの終盤で披露されたときにグループのこれまでとこれからを思わせるような1曲を持っておくというのは当たり前のようで大切なこと。〈この夢は私だけのものじゃない〉というフレーズにグッとくる。
M7. だいすきフルコース
ストレートにiLiFE!からの流れと文脈を感じるハードなシンセサウンド+サビ直前セリフの快速アイドルポップス、クレジットを確認すると「アイドルライフスターターパック」シリーズで知られるMedansyが作曲に入っているとのことで納得である(なお、「シャウト・シャトル」「ビシバシデシベル」もMedansy提供作品)。共作の音無あふは元々ボカロPとして活動している作家のようだが、HEROINESではこれまでにポンコツコンポの結目りぼんなど数名のメンバーへ生誕ソロ曲を提供している。
iLiFE!イズムと現代的アイドルトレンドの中で
「ほしがりんちゅ」「だいすきフルコース」のようにサビ直前にセリフをおくという構成は先に述べた通りKAWAII LAB.のヒット曲始め現代的TikTokソングの定番構成になっており、次々と縦スワイプで動画が切り替えられていく中で冒頭の一瞬だけで「おっ」と注意を惹く効果があると考えられる。フルで聴いたときにも、Bメロの盛り上げから高まった緊張がサビ前で一瞬宙ぶらりんになり、サビで一気に解放されるという緩急がもたらされるように思う。
このようにトレンドから一種の「型」が生まれるというのもポップミュージックの面白いところなのであるが、ことHEROINES楽曲においてはiLiFE!が「アイドルライフ」三部作シリーズ*1でこの型を取り入れて続々とヒットを産んでいるため、さながら「iLiFE!イズム」のトレードマーク的な印象をも与えている。KAWAII LAB.のセリフ楽曲がいわゆる「あざとかわいい」ベクトルを攻めているのに対し、iLiFE!のそれはどこかスポーティな溌剌さを感じさせるものであり、そのiLiFE!印のスタイルが、向日えなというアイドルのキャラクターと「バカデカボイス」というコンセプトを通してMEGAFONに受け継がれているのだと言えるだろう。もちろんここまで見てきた通りMedansy筆頭にHEROINES御用達の作家陣の作家性がそこに強く影響しているのも確かである。
*1 「アイドルライフスターターパック」「アイドルライフブースターパック」「アイドルライフエクストラパック」の3作。それぞれ、〈好きが止まらない!〉〈やっぱ好きなの!〉〈好きすぎて怖い!〉というアイキャッチ的なサビ前セリフが印象的である。
MEGAFONに引き続きHEROINESからはiLiFE!の妹分iON!も誕生しており、いよいよ日本武道館公演を迎えるiLiFE!の活躍を筆頭としてその展開は今後ますます目の離せないものになっていくだろう。