「地雷系」「病み」表象と同性・同世代支持の関係
アイドルといえば若い女性のメンバーを上の年齢の男性が応援している構図、というステレオタイプはAKB48が国民的存在となった時点で既に前時代のものとなったが、とはいえ実態としてアイドルのフロアの構成においてはまだまだ男性がマジョリティであると言えるだろう(ただし年齢については、ことライブアイドルにおいてはメンバーと同世代の若い男性層が多くいる印象がある)。近年ではFRUITS ZIPPERはじめKAWAII LAB.の隆盛により一部の「かわいい系」アイドル現場では男女比が逆転する現象も普通に見掛けられるようになったが、実はこのKAWAII LAB.台頭以前から根強い女性支持を集めているのがヒロシンのような地雷系アイドルシーン——病み系のメイクで、(そして多くの場合派手髪で、)黒を基調とするゴシック・パンク系のスタイルながらも細部にガーリーなあしらいを施した衣装を身につけ、“自己肯定感”とは真逆の葛藤を抱えた心の闇をさらけ出しながら歌う、ダークな空気感を纏ったアイドルグループたち——なのである。
前回連載の終盤でも少し触れているが、ここではなぜヒロシンを筆頭に「地雷系アイドル」が特に同性・同世代の支持を集めるのかという点を掘り下げておきたい。なおアイドルに限らず「地雷系」という言葉の射程にも色々あるが、ここでいう「地雷系アイドル」とは上述したようなメイク・衣装・ビジュアル・歌詞の特徴を持ったアイドルグループを指して言うものとする。
ファッション・カルチャーの先導の役割を果たすアイドル
まずメイクや服装、ビジュアルという観点においては、本稿で既に説明したとおり、ファンがアイドルにインフルエンサーとしての役割、つまり特定のファッションカテゴリーにおける先導役としての価値を期待することができる。自分が属するファッション・カルチャーと同じカテゴリで表舞台に立っている存在を見つけ、そのスタイルを真似て自身に反映するというファン行動は、男性ファンにおいては全くないとまでは言わずともあまり多く見られない観点であろう。K-POPのファンダムではしばしば「ロールモデル」という言葉で呼ばれ、近年は一般にも広まっている概念である。
SNSを通じてアイドル個人が発信力を持つことができるようになった現代では、「かわいい系」「王道系」のアイドルにおいてもこの観点からの同性ファン獲得は珍しくないものになっている。しかしこと「地雷系」シーンについて見るならば、そもそもこのカテゴリー自体が特定の特徴的・限定的なファッションスタイルに由来するものであるため、専門性の高い分野における「お手本」としてアイドルが果たす役割はより大きなものになっていると言えるだろう。特にヒロシンにおいては、アイドルグループとしてというよりも、メンバー各個人あるいはメンバー内の2人組といった単位でそれぞれに発信のチャンネルを持っていた点が強みとなった。
さらに言えば、派手髪にしても強いメイクにしても、あるいは「叶と姫乃」の得意分野であったピアスにしても、他者からの見えを気にするというよりは自分自身が表現したい自己を強く見せていくという“自分ウケ”的側面の強いファッションスタイルである。これはすなわち、このスタイル自体が、ファンが表現したい自己を“推し”のビジュアル表現に仮託しやすい構造を持っているとも言え、異性よりも同性の共感的支持を得やすい一つの要因となっていると言えるだろう。