一見して「オトナチャイルド」と読んでしまいそうな名前であるが、「CHILD.」の省略記号が示す通り正しい読み方は「オトナチルドレン」。2022年に立ち上げられたクリエイティブプロジェクト*1で、主にアイドルグループやコンセプトカフェのプロデュースを行っている。代表にして総合プロデューサーを務めるのはバンド「雨ノ弱」でボーカルを担当し、作詞作曲家でもあるクリエイター「こゆびちゃん」だ。現在OTONA CHILD.にはNANIMONO(ナニモノ)、AZATOY(アザトイ)、hakanai(ハカナイ)の3組のアイドルグループが所属。今回は3グループそれぞれを紹介するとともに、アイドルプロダクションとしてのOTONA CHILD.(オトチル)に迫ってみよう。
*1 正確には事務所(会社)ではなく、社内のプロジェクト名という位置付けになっている。
雨ノ弱とlonely planet オトチル前史
そもそもOTONA CHILD.が出来上がるまでの歴史を紐解いていくと、こゆびちゃん (Vo.)、ゆあ (Ba.)が組んでいたロックバンド「雨ノ弱」に行き当たる。元々はこの2人にギターのメンバーを加えたスリーピースバンドで、そこにサウンドプロデューサーとして杉原亮 (Gt.)が参加するという形式で活動していたのだが、2021年にギターのメンバーが脱退したため杉原が正規のギタリストとして加入している。そして現在、OTONA CHILD.ではゆあがこゆびちゃんと共同代表を務め、杉原はこゆびちゃんと共に所属グループの多数の楽曲で作編曲を手がけている。つまりクリエイティブプロダクションとしてのOTONA CHILD.の実質的な母体となったのが雨ノ弱であると言える。
さらにOTONA CHILD.誕生の少し前、「都会の寂しい女の子」をコンセプトに2020年に活動を開始したアイドルグループ「lonely planet」がいわばOTONA CHILD.の「第0章」にあたる。lonely planetは「ある女性アーティストが存在を伏せてプロデュース」として発足した4人組で、浮遊惑星を意味するグループ名の通り、孤立や孤立を表現する楽曲を展開した。そして後に明かされたこの女性プロデューサーの正体こそがこゆびちゃんなのである。
2021年11月にlonely planetが活動を終了し、約半年後の2022年6月に「NANIMONO」がデビュー、所属事務所としてOTONA CHILD.が成立する。前述の通り雨ノ弱の各メンバーはマネジメント、クリエイティブのスタッフとしてこのプロジェクトに参画。そしてlonely planetからは元メンバーのRinkaが紫苑りんかとして、同グループで物販スタッフをしていた47774(しーなななし)とともに2人でNANIMONOにメンバーとして参加。さらには後にlonely planetの楽曲「ENNUI GIRL(アンニュイガール)」がhakanaiに、雨ノ弱の「未確認生物」がNANIMONOに引き継がれるなど、両バンド・グループとOTONA CHILD.の来歴は一つの緩やかな流れを持ったストーリーを形成している。
2022年デビューのNANIMONOは結成わずか1年でメジャーデビューするなど快進撃を続けており、さらに2023年10月デビューの「AZATOY」、翌年1月デビューの「hakanai」と立て続けにグループが誕生し現在に至る。ここからはこの3つのグループそれぞれについて見ていこう。
胸を締め付ける青春と情熱、hakanai
まずは最も新しいグループ、三姉妹の末っ子にあたるhakanai(ハカナイ)。2023年12月に結成が発表され、2024年1月22日にステージデビューした5人組だ*2。コンセプトは「青春」で、「そんな、儚いものがたり」や「私たちと青春、してみない?」といったキーフレーズを掲げている。大人になってしまった人なら誰しも抱えている「戻らないあの頃」、あるいは「得られなかったあの頃」への憧憬をかたちにするのがhakanaiのクリエイティブである。
*2 結成時から約1年は6人組。
歌詞はグループ名の「儚い」に通じる切なる夢や悩み、そして喪失を歌ったものが多い。公式Xに時折無言で投稿される女子学生たちの秘密の関係を示唆するようなコンセプトポートレートもまた、そうした世界設定を強化するものになっている。
そしてライブのステージでは一転、失われた青春をなんとか取り戻そうとするように情熱的でエモーショナルなパフォーマンスを展開するのがhakanaiの魅力。フロントに立って語りを担当するまゆたゆまの切実な訴えは、轟くバンドサウンドの中でもかき消されることなくまっすぐに観客への耳へと届く。ともすれば「痛い」と言われてしまいそうなほどに熱く、おいそれと触れれば火傷してしまうような青春。しかし、気恥ずかしさを捨てて身を委ねてみれば不思議と優しく、日々のちょっとしたやりきれなさから深い絶望にまで、ストレートに寄り添ってくれる。そんなパワーがhakanaiのライブにはある。