硬派なスタイルにキャッチーさも加えて新境地へ
硬派なダークウェイヴとキャッチーなライブアンセム
M3. Break It Now
M3「Break It Now」は同じくツアー《MARIAGE》でお披露目された楽曲で、今回が初の音源化。デビュー楽曲「Maddest Love」以来のダークウェイヴ・K-POPライクなスタイルをさらに先鋭化させたアンニュイでダウナーな一曲で、ドロップに歌メロが乗っていないというアイドルソングとしては思い切った構成、独白的なフレージングによる目まぐるしい歌割りの切り替えが特徴的である。ドロップの手前にある響羽リズ・三木零による魅せ場のロングトーンはそれぞれの歌唱スキルが光る。
作曲は柿迫ヒカル。柿迫は「かわいいだけじゃだめですか?」(CUTIE STREET)で知られる早川博隆(AdamLilithでは「Maddest Love」「Evil Gloria」を作曲)が代表を務めるRebrastに所属するクリエイターで、FRUITS ZIPPERやSWEET STEADYなど多くのアイドルグループに楽曲を提供している。作詞は「Maddest Love」「Evil Gloria」で既にお馴染みの大山恭子である。
M4. Blah Blah Blah
M4「Blah Blah Blah」は同じく東名阪ツアーのファイナル東京公演でお披露目された楽曲で、こちらも今回が初の音源化。タイトルは仔細を省くとき、あるいはつまらない話を一蹴するときの「~とかなんとか」に相当する英語の慣用表現である。
オリエンタルな旋律がAdamLilith特有の異国的情緒を演出する中、攻撃的で挑発的なリリックが並ぶサビの前半に続いて夜宵やむによるラップフレーズがグループの矜恃を歌い上げる。
2番サビ終わりに現れる響羽リズによる長めのフェイクパートは圧巻で、HEROINES内でもスキルの高いグループとして名を挙げられることが多い所以が見える。このパートを筆頭にライブでの披露よりもややしっとりと歌い上げる大人なディレクションとなっているので、ぜひライブパフォーマンスと聴き比べてほしいところ。
作曲は夜光性アミューズ「あとらくちょん」などを提供している宮内椋太(TRIFRONTIER)で、AdamLilithへの提供は初。
M5. アンチディストピア
M5「アンチディストピア」は現在のAdamLilithを最もよく現す代表曲といえる一曲。『HEROINES ALBUM 2025』収録によりフィジカル音源化され、配信は今回が初となる。リリースに先駆けて9月に公開されたミュージック・ビデオが52万回再生(10月7日時点)を突破するなどホットな楽曲である。
ライブアイドルとしてはダウナーかつ硬派なレパートリーの多いAdamLilith楽曲の中では新鮮に響くアップテンポのミクスチャーロックチューンで、拳を突き上げるサビのフリも相まってライブ人気の高いアンセムとなっている。それでいて大衆性におもねることなくAdamLilithらしい哲学を貫いた歌詞がグループコンセプトの統一感を担保しているのもポイント。iLiFE!「ガンバッテンダー」のようなポップナンバーから〈カニでじゃんけんぽん!〉の勢いに呑まれるキャッチーなトンチキソング(MEGAFON「カニピース」)、そしてこの「アンチディストピア」までを幅広く手がけるAMAMOGUのコンセプト消化力が見事である。
HEROINES BLACKの先陣としての矜恃を示す新境地へ
先日まで行われた《HEROINES LEAGUE》では総合第5位で決勝リーグへ進出する成績を残し、HEROINES内のダーク・ゴシック系統のグループを名実ともに代表する存在となりつつあるAdamLilith。
東名阪ツアーで披露されたそれぞれベクトルの異なる個性を見せる3曲に、グループの信念を描く「アンチディストピア」、宗教的な色を濃く映し出す「Vertigo」を加え、そうしたAdamLilithの新境地とその矜恃を力強く表現したアルバムとなったのが今作『Lilith』である。
AdamLilith
2022年結成。imaginateのアイドルプロジェクトHEROINESに所属。元悲撃のヒロイン症候群の夜宵やむがグループ活動を再開するにあたりメンバーを集め結成されたグループで、ダーク・ゴシックなトーンと宗教的モチーフを取り入れた世界構築、EDM~メタルを横断する重厚なサウンドを特色とする。
HEROINES
株式会社imaginateが悲撃のヒロイン症候群およびその姉妹グループを中心として立ち上げたアイドルプロジェクト。2019年に成立し、その後初期グループが相次いで解散・活動休止、悲撃のヒロイン症候群が解散した後も拡大を続け、おおよそ5年で約20グループ前後を含む大規模な姉妹グループとなった。後にchuLa・パラディーク・アキシブproject・LADYBABYといった事務所外の既存グループもプロジェクトに参入し、一部はそれぞれ元の所属プロダクションとの共同運営や分業の形をとっている。