鬼才・佐藤倫子の成長と真価
グループとして歌唱力の水準が非常に高いRingwanderungの中でも、旧5人時代からみょんと並んで特に歌唱面を牽引してきた佐藤倫子。4人になってからはみょんの印象的なパートを引き継いだ箇所も多く、グループを守り抜く責任感や覚悟のような気概が見え隠れしていた。その成長が最も感じられる象徴的なパートといえば、やはり「Last Summer Daydream」の落ちサビソロパートであろう。
4人時代から現在に至るまで幾度かライブを観ているが、佐藤はこのパートを相当に試行錯誤を繰り返しながら自分のものにしてきたという印象がある。いわゆる憑依型的な歌唱をしていたみょんと対照的に、佐藤は理詰めの技で魅せる歌い方をする。一時期は〈最高と最低が〉の「が」のロングトーンを下からピッチベンドするような表現を入れ込んだりもしていたのだが、次第にそれをやめてよりすっきりと洗練された歌い方に切り替えた。今回の「Last Summer Daydream (2025)」にはその最新版のソロが収録されている。〈散った〉の促音(小さい「っ」)で溜めを作るところなどもライブさながらのレコーディングになっており、フレーズ終わりのビブラートの効かせ方まで鮮やかだ。この曲はみょんの作詞であり、ソロパートと個人の結び付きが特に強かっただけに後を引き継ぐには相応の苦労があったと推察するが、焦ることなく時間をかけて自分なりの形を作り上げたことに敬意を表したい。
他方で「Lily」は初出時から佐藤がその圧巻のハイトーンを見せつける楽曲であったが、ここに歌割り上の相方として篠田が加わったことで相乗効果的に魅力が増している。2番終わりから佐藤→篠田と芯のある歌声で繋ぎ、増田陽凪・辺見花琳の可憐な落ちサビを挟んで佐藤と篠田のハイトーンの掛け合いになだれ込むのだが、この掛け合いでの2人の、混ざり合いつつ対照的でもある、というバランス感が見事だ。それぞれG5〜A5まで上がる超高音の掛け合いを綺麗に歌いこなす篠田の実力は、単に穴を埋めたというだけでなくグループにとって大きなプラスをもたらしたと言える。そして対する佐藤倫子の真価はワンマンで引っ張っていくソロだけでなく、他のメンバーの誰と重なってもその相手と自身の色を存分に引き出せる多彩さにあるのである。