2019年にデビューするや即座に熱狂的な人気を確立したアイドルグループ、悲撃のヒロイン症候群(ヒロシン)。約2年と短命に終わったこともあり、残る記録はそう多くなく、であればこそ一層その伝説性が強化されているとも言える。
この連載では、今改めてヒロシンというグループを語り直すとともに、その系譜に連なる現在のHEROINES所属グループについても紐解いていく。
第3回となる今回は、ファッションやメイクにおける「地雷系」という言葉が定着する過程とヒロシンのヒットが重なったことに注目。ヒロシンが当時のポジションを確立するに至った経緯を追いかける。
そもそも地雷系とは?
女性のタイプについて言う「地雷系」という言葉は元々、「(恋愛で)関わると大変なことになる面倒な性格の女性」を比喩的に地雷、地雷系女子と呼んだものであった。重たい愛情で相手を縛りつけたり、振り回したりする、いわゆる「メンヘラ」とも接続する概念である。そんな地雷系女子の傾向として、黒やピンクを基調としたゴシック・パンク由来のファッションスタイル、サンリオキャラクターの小物の使用、涙袋を強調する濃いメイクなどの共通点が見られたことから、こうしたファッションやメイクが「地雷系」「地雷系メイク」などとして広がっていくことになる。佐々木チワワの著書『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』によれば、「地雷系」のルーツは2014年〜2015年に登場した「病み系」のファッションスタイル。「原宿系」と呼ばれる東京・原宿発の個性的なスタイルから派生したジャンルだという。
「地雷系」定着以前の“病み系”
「地雷系」というスタイルの指す範囲にも色々あるのだが、悲撃のヒロイン症候群のメンバーたちのメイクの系統や衣装のスタイルは広く見て地雷系のカテゴリに属すると言っていいであろう。しかし、こうしたファッションスタイルやメイクの「地雷系」が世に定着していくのは2020年前後のこと。つまり2018年末のヒロシン結成当時には今ほど広く使われる言葉ではなかったと推測される。代わりにこの当時のトレンドであったのが前回連載の後半で紹介し、上記の著作で佐々木チワワも指摘している「病み」「病みかわいい」というキーワードである。
実際、例えば2019年7月のENTAME nextのインタビューを見ると、タイトルでは「話題の“病み系”アイドル・悲撃のヒロイン症候群」と形容され、リード文においても「“病みカワ”なファッションとルックス」と紹介されている*1。2020年4月26日に放送された『関ジャム』(現・EIGHT-JAM)の企画「2020年アイドル勢力図」でヒロシンが触れられた際にも「病みかわいい」の文脈での紹介であった。YouTubeチャンネル「叶と姫乃」が紹介されたRealSoundの記事(2019年9月)*2でも“2人のメイクはいわゆる「病み系」”と説明されており、ヒロシンがまだ「地雷系」という言葉が確立する前の「病み系」の時代に生まれたグループであったことが見て取れる。
*1 https://entamenext.com/articles/detail/2523
*2 https://realsound.jp/tech/2019/09/post-409091.html