胡桃兎愛だからこそ成しえた奇跡の復活
そして迎えた卒業公演当日。前売りチケットは完売し、Zepp Shinjukuには前物販開催時間から多数のファンが集まった。
前半、胡桃のソロパートではガガピエロのラスト楽曲「コールド・“ラブ”・スリーパー」と胡桃のソロ楽曲2曲が披露され、転換を挟んでいよいよ悲撃のヒロイン症候群のライブパート。4年ぶりに響き渡る鐘の音に幕を開け、MCを挟みつつ全6曲という、決してちょっとしたコラボ企画の枠には収まらないボリュームのあるライブが展開された。MCの冒頭、「私たち、悲撃のヒロイン症候群です」という名乗りに対して上がった悲鳴にも似た歓声は、この4年間の沈黙の間にそれだけ強い想いが積み重ねられていたことを物語っていた。
この日の主役である胡桃はMCで「私1人の力ではこんなに沢山の人でZepp Shinjukuを埋めることはできなかった」と謙虚に語った。一生に一度の自身が主役の場でありながら、本編の半分以上の時間をヒロシンのステージに割き、「ヒロシンの時間は推しメンのカラーのペンライトを振ってね」と呼びかけたことにも、その謙虚さは現れている。
確かに1,500人規模の会場がソールドアウトしたのは「ヒロシン効果」でもあり、他の3人や、この日は参加しなかった元メンバーについているファンの力でもあるだろう。しかしながら、そもそも4年間上がることのなかった重たい幕が再び上がったのは、他ならぬ胡桃自身の卒業という記念すべき場だからこそであり、そして胡桃自身の人柄、人徳によるところが大きいように思われる。亡霊たちの「いつか」の願いを叶えるに最も相応しい場がこの日の卒業公演だったのである。語弊を恐れずに言えば、もし4人のうち他の誰かが先に卒業を迎えていれば、この奇跡が、このような形で実現することはなかったのではないだろうか。
先述した通り解散以降公の場でヒロシンに関わる発信が行われることはそう多くなかったが、胡桃が所属したガガピエロは夜宵やむの現所属であるAdamLilithと頻繁に共演、プライベートでも親交があり、また蒼井叶・白雪姫乃のtwinpaleには胡桃のデザインによるステージ衣装用の靴を提供したことがあるなど、4人の中では一際全員との交流を持っていた。そんな謙虚で心優しい胡桃が、卒業コメントで書いたように長年切に抱えていた願いであり後悔であるからこそ、最後の機会にその想いに応えようと元メンバー3人が快く集まり、そしてそのファンたちもその姿を見届けに駆け付けたのであろう。