2019年にデビューするや即座に熱狂的な人気を確立したアイドルグループ、悲撃のヒロイン症候群(ヒロシン)。約2年と短命に終わったこともあり、残る記録はそう多くなく、であればこそ一層その伝説性が強化されているとも言える。
この連載では、今改めてヒロシンというグループを語り直すとともに、その系譜に連なる現在のHEROINES所属グループについても紐解いていく。
第1回は、2月に行われた胡桃兎愛卒業公演での、悲撃のヒロイン症候群4年ぶりとなる復活の経緯を振り返る。
一夜限りの伝説の復活
去る2025年2月28日、東京・Zepp Shinjukuである1人のアイドルの卒業ライブが行われた。《I (don’t) D♡LL.》と題され、1,500キャパシティを完売させたこのライブで卒業を迎えたのは、同2月7日までガガピエロのメンバーとして活動したピンク色担当のメンバー・胡桃兎愛(くるみ とあ)である。ガガピエロは7日のラストライブをもって活動を終了したが、胡桃はこれに伴って所属事務所imaginateを退所しアイドル活動をも終えるため、グループのラストライブとは別に個人での卒業イベントを開催することとなった。
ガガピエロのラストライブが行われたVeats Shibuyaは最大キャパ600人とZeppの半数以下の会場である。アイドルにおいてグループ活動と個人での活動でここまで規模が逆転するというのも不思議な話。もちろんグループ活動には関心がなくあくまで胡桃兎愛1人を応援しているというファンがいてもおかしくはないのだが、この日Zepp Shinjukuを埋め尽くしたファンたちには、胡桃の卒業を見届けるということの他にもう一つ目的があった——それが、かつて胡桃が所属した伝説のアイドルグループ、悲撃のヒロイン症候群の一夜限りの復活ライブである。
悲撃のヒロイン症候群(ひげきのヒロインシンドローム、ヒロシン)は2018年結成・2019年デビューの7人組。いわゆる病み系、地雷系と呼ばれるメイク・ファッションを身に纏い、ゴシックな世界構築をハイクオリティなアーティスト写真で表現、同世代同属性の人々の心に寄り添う楽曲で熱狂的な人気を得たグループである。しかし、2021年4月、一時活動休止期間中に突如として解散を発表。いつの日かの復活を待ち望み、「亡霊」を自称するファンを数多く生み出す結果となった。
そしてその叶わぬ願いが叶った日、それが奇しくも活動休止からちょうど4年後となる2025年2月28日、Zepp Shinjukuでの胡桃兎愛卒業公演であった。
胡桃兎愛が密かに持ち続けていた願い
そして「亡霊」となっていたのは「ヒロ信*1」だけではなかった。ガガピエロが活動終了、胡桃兎愛が事務所を卒業すると発表された際、胡桃が発表したコメントには次のような文章があった。
*1 悲撃のヒロイン症候群のファンネーム。
ヒロシン復活がなければ、ガガピエロでの活動を人生最後のアイドル活動にすると最初から決めていたので、卒業と共に退所をする事も決めました。
胡桃兎愛卒業発表コメント
(2024年11月21日)
解散後、HEROINES(imaginate)に残ったメンバーは胡桃含め4人。他の場所で活動を続けたのが2人で、残る1人は完全に表舞台から身を引いている。ホームに残った胡桃たちの後の活動においても、ヒロシン時代の話題に公に触れられることはこれまであまりなかった。そんな中で胡桃が発表したこのコメントは、胡桃自身が長年密かにいつの日かの復活を強く望んでいたことを窺わせ、そしてそれが叶わなかった悔しさをも滲ませるものであった。
そしてガガピエロを卒業した翌日2月8日、胡桃自身のアカウントからの発表により、ソロラストライブのゲストとして元メンバーで今もHEROINESに残る蒼井叶(あおい かなう)・白雪姫乃(しらゆき ひめの)・夜宵やむ(やよい やむ)の3名が出演することが公開された。続く投稿でも「ヒロシンの楽曲をパフォーマンスする」旨を明確に発信し、ヒロシンの一夜限りの復活が実現することとなったのである。