JR京都駅には0番線という特殊な線路が通っている。1992年の路線番号改訂の際、新幹線の路線番号を動かさずに在来線の路線をナンバリングしなければならないという事情から1番線の手前に0番線が置かれ、さらに後にプラットフォームの番号もこれに合わせて変更されたために誕生したものだ。ちなみに、1番線は通過用路線であり、欠番扱いになっている。

そんな「0番線」をグループ名に冠するアイドルグループが今、耳の早いリスナーの間で注目を集めている。京都発のセルフプロデュースアイドルグループ「0番線と夜明け前」だ。

「0番線と夜明け前」とは

2023年7月に結成、8月28日に単独公演《Debut Live》（大阪・心斎橋HOKAGE）を開催しデビュー。「孤独な夜が明けるまで、あなたと同じ世界線に」をキャッチコピーに活動している。結成当初は4人組だったが、2023年11月に1名が脱退して以降は、夜乃マユミ・ゆりな・マリノの3人で活動している。事務所には所属せず、メンバーらが運営を兼任、ブッキングやスタッフの手配、作詞や振付までこなすセルフプロデュースのアイドルグループだ。

“やらされてないタイプ”のオルタナロックアイドル

楽曲はいわゆるオルタナティブ・ロック、特にシューゲイザーやマスロックといったジャンルに分類されるダウナー・内向的で轟音ギターや変拍子を特徴とするサウンドだ。

メインコンポーザー的立ち位置にいるのは滋賀県発オルタナティブロックバンド・Blume popoのGt.でドイツ在住の横田 壇。RAYへの楽曲提供やponderosa may bloomのプロデュースでシーンのウォッチャーにはお馴染みとなっている管梓も参加しており、その道のファンにとっては好きにならないわけがないという布陣。SNSの反応を眺めていてもヤなことそっとミュートやRAY、ピューパ!!などといった本格志向の楽曲派アイドルリスナーにいち早くリーチしている印象がある。

この系統のグループを論じるのにしばしば話題となるのが“やらされてる感”。というのも、従来こうしたジャンル特化の本格サウンド志向グループは、かつてバンドマンとして活動していた人間がプロデューサー・楽曲提供者へ転身してアイドルシーンへ参入、自分がやりたい音楽をアイドルメンバーに演じさせている……といった構図が定番だからだ。場合によってはこの図式を揶揄するような声が上がることもあるのだが、決してそれ自体悪いことではなく、こうしたムーブメントによって若い世代や音楽マニア以外にも音楽の魅力が広まったり、「やらされている」メンバーら自身の側が自分達の演じる楽曲の本質に触れることでアイドルというフォーマットでしか実現し得ない魅力が発揮されたり、といったメリットがあることは強調しておきたい。

そんなシーンへの擁護を入れて予防線を張った上で「面白い」のが、0番線と夜明け前のメンバーたちが全くもって“やらされていない”こと。メンバーセルフプロデュースで「運営のおじさん」はそもそも存在していないので当たり前といえば当たり前なのだが、メンバーたちは折に触れて「好きでやりたいことをやっている」と発言している。音楽好きオルタナ好きに突き刺さるサウンド志向はそのままメンバーたちの趣味嗜好。彼女たち自身が第一にオルタナロックシーンのファンなのである。実際、SNSの投稿を見ても、メンバーたちがプライベートでそれぞれにBlume popo、AMERICAN FOOTBALLにbachoといったオルタナ・ハードコアバンドのライブへ足を運んでいる様子をアップしていたりする。

Blume popoは夜乃マユミが「ステージに立つ側になりたい」と思うようになったきっかけを与えたバンドであり、これが横田による0番線と夜明け前への楽曲提供につながっていく。「やらされてない」本格楽曲派アイドルグループ、それが0番線と夜明け前なのである。