2019年にデビューするや即座に熱狂的な人気を確立したアイドルグループ、悲撃のヒロイン症候群(ヒロシン)。約2年と短命に終わったこともあり、残る記録はそう多くなく、であればこそ一層その伝説性が強化されているとも言える。
この連載では、今改めてヒロシンというグループを語り直すとともに、その系譜に連なる現在のHEROINES所属グループについても紐解いていく。
第2回となる今回は、ヒロシン結成の経緯と、結成された2018〜2019年のアイドルシーンの状況を振り返る。
ヒロシン結成までの経緯
悲撃のヒロイン症候群結成のきっかけとなったのは蒼井叶(あおい かなう)、白雪姫乃(しらゆき ひめの)という2人のメンバーの存在だ。2人は2018年の8月からごく短期間、imaginateでプロデューサーのUya(渡辺裕也)が手がけていたアイドルグループに所属していた。その後9月29日に2人でYouTubeチャンネル「叶と姫乃」を立ち上げ、imaginate所属のYouTuberとして活動を開始。このYouTubeチャンネルについては後の連載でのちに2人が結成したtwinpale(現Ill)とともに詳しく触れることになるが、いわゆる“病み系”と呼ばれるメイクの2人が自身のメイクやピアスに関する事情を赤裸々に公開していく内容で、このジャンルにおける先駆けとして根強い人気を獲得。開設1年で登録者数が11万人を突破するほどの勢いを見せた。
蒼井・白雪の前所属グループは2人が加入した新体制からわずか1か月となる9月中で活動を終了しており、2人はYouTuberとして活動を続けながら、プロデューサーUyaとともに次のアイドルグループの企画を立ち上げることになる。のちにインタビュー*1で語られた経緯によれば、この2018年9月ごろには既に3人目となる胡桃兎愛(くるみ とあ)が企画に参加している。胡桃はこの頃、地元広島で読者モデルとしてアパレル分野で活動していた。前回連載でレポートした卒業ライブで胡桃自身が語ったところによれば、イベントで東京に来ていた際、Uyaから直接アイドルに興味はないかと声をかけられ、スカウトされたという。
*1 https://mdpr.jp/interview/detail/1824146
12月には胡桃同様に活動経験のある夜宵やむ、反対に全くの芸能初心者である野苺みくるの2人が参加し、いよいよ5人でのデビューに向けてプロジェクトが動き出していく。「悲劇のヒロイン症候群」とは、悲劇の物語に登場するヒロインのように「可哀想」な自分を演じることで周囲からの承認や注目を得ようとする心理を指した俗語で、医学的な定義が定まった本当の「症候群」ではないようである*2。グループ名はそんな「悲劇のヒロイン症候群」をもじって、「撃」には「世の中に打ち勝つ」という意味を込めて「悲撃のヒロイン症候群(シンドローム)」と命名された。
*2 用語の初出を辿ると『こころの病が治る親子の心理療法』(網谷由香利 著、2009年)に『「悲劇のヒロイン症候群」(筆者による命名)』という記述があるが、SNS上ではもう少し古い使用例も確認できる。いずれにせよ2000年台に登場した造語のようである。
アーティスト写真の公開とプロモーション
12月15日に公式Twitterアカウントが始動し、グループ名「悲撃のヒロイン症候群」とともに1人目のメンバーとして白雪姫乃のイメージ映像とアーティスト写真が公開。以後1日1人ずつメンバーを発表していき、12月21日には集合アーティスト写真も公開された。この間、公開1日で公式アカウントのフォロワーが1,000人を突破、翌日には倍増の2,000人を突破、各メンバーのフォロワー数も急増するなど初動から大きな反響を得ている。
メンバービジュアル公開の際に静止画だけではなくティザームービーを併せて公開するこの手法はimaginate(HEROINES)伝統のスタイルとして確立されており、記事執筆時点の最新グループであるテンシンランマンやPastel Closetのデビュー時にもしっかり踏襲されている。元々メンズアイドルのプロデュースやYouTube事業でノウハウがあり、代表のUya自身を含めて自社完結で映像制作が可能なimaginateならではのプロモーションと言えるだろう。